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Posted by - 2024.04.28,Sun
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Posted by Ru Na - 2014.08.12,Tue
つれあいの北欧での仕事はもうじき終わる。
夏の休暇を利用した旅の絵葉書が、次々と届いた。

  

ヘルシンキからフェリーでザンクトペテルブルクのビザなし観光。
それからバルト三国。ポーランドのワルシャワを回る行程。

かつてのレニングラード、ザンクトペテルブルクの絵葉書が
届いたのは、他の街からの便りが来た後、一番最後だった。

  

二週間以上かかってやって来たロシアからの葉書。何だか妙に嬉しい。

ワルシャワからは二枚。ショパンの心臓が眠る街。
若くしてパリに亡命したショパンは、二度と祖国の土を踏むことなく、
パリのペールラシェーズ墓地に埋葬されたが、
その心臓だけは、故郷に戻されたという。

  

ベルリンの玄関口だったZoo駅は、今やトラムの普通の駅の一つになり、
旧東ベルリンのハウプトバンホフ(中央駅)が、その名の通り
中央駅になっているとのこと。

東西ドイツが統一してまだ間もない頃、
ハウプトバンホフで出会ったポーランド人の女の子を思い出す。
駅のホームのキオスクで、お菓子を買っていた私に話し掛けてきた。
「クラクフから遊びに来たのよ。ベルリンは素敵ね。
 ポーランドじゃ学校で習うのはロシア語ばかり。
 私はロシアが大っきらい。英語は英米映画を見て自分で勉強したの。」
ひとしきりおしゃべりしていたら、電車が来たのでそこでお別れ。
赤いベレー帽がよく似合った彼女は今どうしているだろうか。

それより数年前、鉄道のユースパスで西ヨーロッパの各地を旅した夏休み。
フランクフルトから西ベルリン行きの列車に乗った。
当時はまだ冷戦時代。西ベルリンは東欧の鉄のカーテンの向こうに浮かぶ
離れ小島のようだった。
西ベルリンに行くには旧東ドイツ国内を通らなければならず、
ユースパスが使えなかった。

    

西ベルリンから東ベルリンへは、日帰りならば簡単にビザが下りたので、
トラムに乗って出かけた。
数年後に壁が崩壊するなんて想像もしなかった頃、
列車が地下に潜って東側に入ると、使われていない駅の暗いホームの
片隅に、銃を持った兵士が立っている光景が、車窓を過ぎていった。
フリードリヒシュトラッセ駅に着いて、検問を通り、
すすけた暗い階段を降りると、西から来る家族か知人を
待ち受けているらしい人の群の真剣なまなざしに囲まれた。
ペルガモン美術館のペルガモン祭壇や、イシュタール門の巨大さに
圧倒され、ボーデ美術館の建物に残る大戦の銃弾跡に衝撃を受けた。

    

テレビ塔に登れば、シャンゼリゼ通りのような大通りが、
ブランデンブルク門の所で、壁で分断されているのが見えた。
テレビ塔の下にたむろしていたパンクファッションの男の子たち。
私が付けていたジョン・レノンのバッジを嬉しそうに見るので、
思わずバッジをはずしてあげてしまった。
彼らは今どうしているだろう。ドイツはその後の激動の時代を経て、
今頃はいいおじさんになっているはずの彼らは、昔、東洋人の女の子から
ジョン・レノンのバッジを貰ったなんて、多分覚えていないだろう。

    

日が落ちた後のブランデンブルク門は暗かった。人通りもほとんど無く、
銃を持った若い兵士が、所在無さげに脇に立っているだけ。
再びトラムで西ベルリンに戻ると、
Zoo駅前の、ヨーロッパでは珍しいネオンの光がやたら明るくて、
その落差に驚いたものだった。

    

翌日、そのZoo駅からパリに戻る夜行列車に乗った。
暗緑色の大きくて厳めしい車輌は、ワルシャワから来たもので、混んでいた。
座れるコンパートメントを探すと、夜もまだ時間は早いのに、
もう室内灯を消し暗くしている部屋があった。その薄暗い室内の奥、
6人がけの窓際に一組の男女だけが、向かい合ってひっそりと座っていた。
男は黒いタキシードに蝶ネクタイ。女は鮮やかな赤色の身体にぴったりとした
ワンピース。当時の西側では見かけないいでたちである。

   

コンパートメントの中には、ひどく張り詰めた空気が流れていた。
他の部屋が人で溢れているのに、ここだけ空いていたのは、
この異様な空気を皆避けたからかもしれない。
貧乏旅行中の外国人学生の無遠慮さで、そんな空気に気が付かない振りをして、
私は中に入って座った。
とにかく疲れていたので、早く座席が欲しかった。
うとうとしては目を覚ます度、彼らは相変わらず一言もしゃべらず、
いつも同じ姿勢でじっと座っていた。

  
列車はどこかの駅に着いて、急に辺りがざわざわしだした。
国境駅でパスポート検閲官が乗り込んできたのだ。
検閲官が車掌と共に、順にコンパートメントを回っているのが聞こえる。
我々の部屋の戸も、コンコンと叩いて入ってきた。
私も彼らもパスポートと切符を見せ、あっさりと国境を通過。
走り出した列車は、しばらくしてまた止まって検閲官がやって来た。
先のは東ドイツで、今度は西ドイツの検閲らしかった。

もう空が白んでいる。駅のホームでは、大きな荷物をいくつも抱えた
アフリカ系の青年たちが、何か密輸入でもやらかしたのが発覚したのか、
警察官に引っ張られていくのが見えた。

   

明るくなった景色の中を列車が走り出すと、
コンパートメントの中の張り詰めた空気が、ふと緩んだ。
二人は一言も発せずひしと抱き合い、それから、
人形が急に命を吹き込まれたかのように、そわそわと動き出した。
荷物らしい荷物は持っていない。女が小さなバッグから何かを
取り出したり、私の知らない言葉で口早に話したり、
そうして彼らは次の駅で降りて行った。

   

今でも目に浮かぶ晴衣の男と女。
どうやら私は亡命の現場に居合わせたらしい。
今思えば、二人があんな格好をしていたのは、
オーケストラの楽団員がコンサートに出演した姿のまま、
列車に飛び乗ったのではないだろうか。


   



   

   












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