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Posted by Ru Na - 2014.02.28,Fri
故天野祐吉さんの言葉を借りれば、「世界村の運動会」であるソチオリンピックの
最中に、ウクライナの動乱はますます悪化し、ヤヌコビッチ政権が崩壊した。
旧ソ連邦から独立した国々の中でも、比較的先進的な大国というイメージを
もっていたので、ウクライナでの流血騒ぎは、ショッキングな出来事だった。
親ロ派と親EU派の対立は以前からニュースで聞いていたが、
ここまでエスカレートしてゆくとは。予断を許さない情勢が続いている。

私はウクライナについてあまりよく知らない。
中世期のキエフ公国建国にヴァイキングが関わったこと、
ロシア同様、200年以上「タタールのくびき」の下にあったこと、
エイゼンシュタインの映画「戦艦ポチョムキン」で有名なオデッサの階段は
ウクライナにある、といったくらいである。
旧ソ連時代のソ連の3大バレエ団の一つがキエフバレエ団。
振りの大きいダイナミックなモスクワバレエ、エレガントなレニングラードバレエ
に対し、キエフバレエはどこかチャーミングで、私の好みだった。
キエフバレエ「森の詩」が、そのまま私のウクライナのイメージになっていた。
旧ソ連のとてつもないピアノの巨人たち、リヒテルやギレリス、
この二人の師匠であるネイガウス、それにホロヴィッツがウクライナ人であったとは
後年知った。

                

ずい分前、ホロヴィッツばかり聴いていた時期がある。
その音色には、一度魅せられると離れ難い魔力がある。
去年ラジオで、久しぶりにホロヴィッツの特集番組を連続して聴いていて、
改めてその音色にある憂愁を感じた。
同時代のリヒテルの音は、攻撃的なところがあるけれど、とてもポジティブ。
どんな気分の時でも、拒絶反応が起きることがない。
吉田秀和氏は、奥様を亡くされた時、一時期どんな音楽も聴きたくなくなったが、
リヒテルの平均律だけはすんなりと心に入っていった、と書かれている。
対してホロヴィッツは、聴く“時”を選ばないと大変危険。

ホロヴィッツの柔らかな音色は、暗いというより、
これはひどく孤独なものを含んでいる音だと気付いた。
グレン・グールドの音色にあるのは、生物としての根源的な孤独感。
家族や仲間と群れていても、誕生も死も、その個固有の、独りきりのもの
という、人以外の生物が皆、常に忘れずに内在させている種子のように思える。
ホロヴィッツのそれは、また別種の人間社会由来のものではないだろうか。
それは、その時代、その場所で生きるという孤独。

若い頃に米国に亡命し、大指揮者トスカニーニにその才能を見出され、
その娘婿になり、「ホロヴィッツは社会現象」とまで云われるほど
米国の聴衆に熱狂的に受け入れられ、ラフマニノフは彼のために曲を書き、
ピアニストとしてはとても恵まれた境遇にあり、
1989年86歳で亡くなった後も、世紀の天才ピアニストとして
その名は輝きを失うことがない。
それなのにその音色の暗さは、若い日に後に自ら捨てた故国への望郷の念が
込められているのだろうか。





     






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