見たこと、聞いたこと、感じたこと、考えたこと。
Posted by Ru Na - 2012.05.31,Thu
太陽が月に隠れ再び姿を現した翌日、心を照らすもうひとつの光が地上から永遠に失われた。
吉田秀和氏 音楽評論家 98歳
急性心不全により鎌倉の自宅で5月22日午後9時死去。
その光は陽の光というより、あるいは、静かで清らかな光線をそっと内面の奥深くまで届ける
月の光と形容した方がよいのかもしれない。
訃報を知ったのは、27日のラジオの昼のニュースだった。
前日の土曜日、夜9時からのNHKFMラジオの氏の番組「名曲のたのしみ」で、
いつも月末に放送される「私の試聴室」を聴いたばかりだった。
シューベルトの交響曲第1番と第2番。
「シューベルトの若い頃の交響曲はあまり演奏される機会がないけれど、
この間ピリオド楽器による演奏を聴いたら、とってもおもしろかったので、
みなさんに紹介します。」
と、いつもの柔らかな語り口で曲を説明されていていた。
氏がたいそう高齢なのは知っていたが、近頃100歳を超えても現役で活躍している方も多く、
ラジオで氏の生き生きした感性に触れる度に、
毎週楽しみにしていたこの時間が、この先ずっと続くように思っていたのだった。
私が吉田秀和氏のラジオ番組「名曲のたのしみ」で、作曲家の全曲連続放送を
ほぼ欠かさずに聴き始めたのは、確か2000年前後、シューマンからである。
朝日新聞に月一回掲載された「音楽展望」を、意識して切り抜きを始めたのは、
地下鉄サリン事件があった95年。
その年亡くなったピアニスト、ミケランジェリとサリン事件を、人間の光と闇の対比として
捉えた回からだった。
私にとって朝日新聞は、故加藤周一氏の「夕陽妄言」と吉田氏の「音楽展望」を読むための
新聞だった。(それともう一つ、楽しみにしていた大江健三郎氏の「定義集」も
この春で連載が終わってしまった。)
「音楽展望」は、7年前氏が、日本文学、特に永井荷風研究者の夫人バルバラさんを
亡くしてから、季節毎、年に四回の連載になっていたが、
「名曲のたのしみ」は毎週休みなく、ドボルザーク、メンデルスゾーン、プロコフィエフ、
ショスタコーヴィチ、ベルリオーズ、R.シュトラウス、チャイコフスキー、プーランク、
ハイドンと続き、ラフマニノフの連続放送が昨年11月に始まった。
プロコフィエフからは、ほぼ毎回録音するようになり、最初はテープ、それがMDに代わり、
その間少しづつ買い揃えていった氏の著作も、本棚に増えていった。
「私の試聴室」で、アンジェラ・ヒューイットやヒラリー・ハーンという素晴らしい演奏家を知り、
著作を通じて知った曲や演奏家のCDを探しに行ったりもした。
今、吉田秀和氏の本を、どれでも一冊手に取って、どれか一文を読むと、
心洗われる美しい文章に、音楽や世界に対する愛の暖かさが、再び蘇ってくる。
吉田氏の文章を読むと、音楽が聞こえてくるようだ、と何人もの人が書いているが、
同時に私には、吉田秀和さんの声も聞こえるような気がする。
そして、流れてくるのは、R.シュトラウスの「四つの最後の歌」の「夕映えに」。
おヽ、広々と静かな安らぎ、
夕映えの中で かくも深く
私たち 何とさすらいに疲れたことか
もしかしたら、これは、死?
吉田秀和氏 音楽評論家 98歳
急性心不全により鎌倉の自宅で5月22日午後9時死去。
その光は陽の光というより、あるいは、静かで清らかな光線をそっと内面の奥深くまで届ける
月の光と形容した方がよいのかもしれない。
訃報を知ったのは、27日のラジオの昼のニュースだった。
前日の土曜日、夜9時からのNHKFMラジオの氏の番組「名曲のたのしみ」で、
いつも月末に放送される「私の試聴室」を聴いたばかりだった。
シューベルトの交響曲第1番と第2番。
「シューベルトの若い頃の交響曲はあまり演奏される機会がないけれど、
この間ピリオド楽器による演奏を聴いたら、とってもおもしろかったので、
みなさんに紹介します。」
と、いつもの柔らかな語り口で曲を説明されていていた。
氏がたいそう高齢なのは知っていたが、近頃100歳を超えても現役で活躍している方も多く、
ラジオで氏の生き生きした感性に触れる度に、
毎週楽しみにしていたこの時間が、この先ずっと続くように思っていたのだった。
私が吉田秀和氏のラジオ番組「名曲のたのしみ」で、作曲家の全曲連続放送を
ほぼ欠かさずに聴き始めたのは、確か2000年前後、シューマンからである。
朝日新聞に月一回掲載された「音楽展望」を、意識して切り抜きを始めたのは、
地下鉄サリン事件があった95年。
その年亡くなったピアニスト、ミケランジェリとサリン事件を、人間の光と闇の対比として
捉えた回からだった。
私にとって朝日新聞は、故加藤周一氏の「夕陽妄言」と吉田氏の「音楽展望」を読むための
新聞だった。(それともう一つ、楽しみにしていた大江健三郎氏の「定義集」も
この春で連載が終わってしまった。)
「音楽展望」は、7年前氏が、日本文学、特に永井荷風研究者の夫人バルバラさんを
亡くしてから、季節毎、年に四回の連載になっていたが、
「名曲のたのしみ」は毎週休みなく、ドボルザーク、メンデルスゾーン、プロコフィエフ、
ショスタコーヴィチ、ベルリオーズ、R.シュトラウス、チャイコフスキー、プーランク、
ハイドンと続き、ラフマニノフの連続放送が昨年11月に始まった。
プロコフィエフからは、ほぼ毎回録音するようになり、最初はテープ、それがMDに代わり、
その間少しづつ買い揃えていった氏の著作も、本棚に増えていった。
「私の試聴室」で、アンジェラ・ヒューイットやヒラリー・ハーンという素晴らしい演奏家を知り、
著作を通じて知った曲や演奏家のCDを探しに行ったりもした。
今、吉田秀和氏の本を、どれでも一冊手に取って、どれか一文を読むと、
心洗われる美しい文章に、音楽や世界に対する愛の暖かさが、再び蘇ってくる。
吉田氏の文章を読むと、音楽が聞こえてくるようだ、と何人もの人が書いているが、
同時に私には、吉田秀和さんの声も聞こえるような気がする。
そして、流れてくるのは、R.シュトラウスの「四つの最後の歌」の「夕映えに」。
おヽ、広々と静かな安らぎ、
夕映えの中で かくも深く
私たち 何とさすらいに疲れたことか
もしかしたら、これは、死?
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