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Posted by Ru Na - 2010.08.20,Fri
Mon mari a visite a Toronto de Glenn Gould

今仕事でカナダに行っているつれあいが、トロントに立ち寄って、
グレン・グールド所縁の場所を訪ねた。

天才ピアニスト、グレン・グールドについて、語りだすときりがない。
コンサートの舞台に初めてネクタイなしで現れたピアニスト。
人気の絶頂期に、32歳で「コンサートは死んだ。」と宣言し、コンサート活動を一切やめ、
スタジオ録音によるレコードや、自分でプロデュースしたTVやラジオ番組などで、
その活動をメディアにより発信した初めてのピアニスト。
スタジオにこもって、自分が納得できる演奏ができるまで、テイクをくり返し、
珠玉のレコードを沢山残した。

その曲の解釈が、いつも物議をかもした。
極端にテンポの遅い、モーツァルトやベートーヴェン。
楽譜の強弱記号やくり返し指示の無視。
とても低い椅子に座り、うなりながら弾く演奏の姿勢。
暑い日でも、厚いコートにマフラー、手袋に身を固めていた姿。
エキセントリックな奇人、と見られていた。
82年に50歳で急逝した。

以上が、グールドについてよく語られていること。

GG01.jpg
   
     カナダ放送局前の、G.グールドのモニュメント


グールドの生前、私も名前は知っていた。
美大の同級生が、歌いながら演奏する変わったピアニストがいる、と
レコードを聴かせてくれたこともあるが、あまり記憶に残っていない。

後に、別の友人がグールドのベートーヴェンをダビングしたテープを2本くれたが、
正統派のベートーヴェン弾き、例えばバックハウスなどと聞き比べて、
その突飛さを、時々おもしろがっている程度だった。

10年ほど前、つれあいと車で富山県の桜ヶ池に出かけた時、このテープを持参し、
道中くり返し聴いていたら、そのノリの良さはまるで長唄みたい、と耳が離せなくなり、
さらに聴き続けるうち、ピアニストの非常な集中力と真摯さが伝わってきて、
これは、ただ変わった演奏をしようなんて思ったウケ狙いなどではなく、
曲の分析と解釈を、自分の感性を信じてとことん追求した、とんでもない演奏だということが、
しだいに私にも分かってきた。

それからというもの、グールドのCDはほぼ全部揃え、グールドに関する書籍も集め、
現在手に入らないものは、図書館で探し回り、すっかりグールディアンになってしまった。
知れば知るほど、その魅力に惹かれ、さらにもっと知りたくなる。
グールド書簡集や著作集を読めば、ユーモアと思いやりに満ちた暖かさの中に、
並々ならぬ知性と明晰な頭脳を感じ、
どんな時でも、彼の演奏を聴くと、渓流にほとばしる清冽な水しぶきを浴びたように、
清浄な心地がする。
グールドのピアノを聴いていると、ちょうど無邪気で無心な子犬が走り回っているような、
何か比類ない無垢なものが、その音色に含まれているのが感じられる。

没後30年近くたっても、彼に関する研究書の出版は、後を断たず、
時たま未発表の音源も出てきたり、CDは売れ続けている。
彼は奇人なんかではなく、野生の動物や鳥のように、
只々純粋に生き物としての生を、虚飾なく生きていたのだと、そして、
人間の中にもいくらか残っている真の生(き)の部分に触れるので、
これほど多くの人の心を摑んで離さないと、私には思われてならない。

55年に、それまであまりメジャーな曲ではなかったバッハのゴールドベルク変奏曲で、
世界にセンセーションを巻き起こしたグールドは、
亡くなる前に、滅多にやらなかった同じ曲の再録音を、このゴールドベルクで行った。
20世紀指折りの名盤となり、グールドの墓石にも、この曲の冒頭が刻まれている。


GG05.jpg



















諸事情で家を数日空けることが難しいので、近頃なかなか海外には出かけられないけれど、
いつの日にか、私もグレン・グールドが生きた街、トロントを訪ね、その空気に触れてみたい。
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金沢市在住の美術家
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